【解説】アクアリウムにおけるpHとは?pHから何が分かるのか?

はじめに

この記事では、主に以下4点について記述しています。

  • pHが表しているもの
  • pH測定時の注意点
  • pHを安定させるにはKHが必要な理由
  • pHが変動する要因を調べる方法

pHに関する疑問について、出来るだけ何故?という点について記述するように心がけました。

pHの定義

正確な定義について少し調査してみました。

JIS K 0211によると

「水素イオン活量の逆数の常用対数」という風に定義されていました。ただし、この概念では測定不能であり、測定する場合の操作的定義は以下のJIS規格で定められているようです。

JIS Z 8802によると

「この規格に規定した pH 標準液の pH 値を基準とし,ガラス電極 pH 計によって測定される起電力から求められる値」となっていました。これだけでは何のことかわからなかったため、調べてみたところ、HORIBAのページに分かりやすく説明されていました。

JISにおけるpHの定義 HORIBAウェブサイト

やはり、学校で習った以下のpHの定義が物理的な意味を理解するには最適と思われます。

pH = 水素イオンのモル濃度をmol/Lで除した値の逆数の常用対数

これだと非常に分かりにくいので、pHが何を示しているのかを以降で説明します。

 

pHは何を示しているのか

pHは水中のH+のモル濃度を表しています。簡単にいうと、水中にどれだけH+(水素イオン)があるのか=どれだけ酸性なのかアルカリ性なのかを表す値ということになります。

何故pHが酸性やアルカリ性を示すのかというと、水のイオン積Kwは水温25℃の場合以下のように常に一定となります。

Kw =  [H+]×[OH]  =  1 × 10−14  (mol/L)2

このイオン積Kwが示していることは、H+が多くなったら、その分OHが減り、OHが多くなったら、その分H+が減るということを表しています。

H+が多いと酸性で、OHが多いとアルカリ性ですので、H+の濃度を測定すれば、その水溶液が酸性かアルカリ性なのかわかります。なので、H+濃度を示すpHを測定するということになります。

定義のところでpHは常用対数であると書きましたが、これは感覚的に理解される方は特に重要で、pHが1違うということはH+の濃度は10倍違うということを示します。つまり10倍酸性度が強いまたは弱いということになります。pHが2違った場合は100倍違います。pHが3違ったら1000倍違います。つまり、pHが6と8では100倍の違いがあるということは理解しておいた方がよいと思います。

一般的に淡水魚は弱酸性のpH=6近辺で海水魚はpH=8近辺で生きています。これは100倍酸性度が違うところで生きているということを示しています。

お味噌汁に入れる塩の量を通常の10倍にしたらどうでしょうか?大変な違いですよね。pHが1違うということは、10倍酸性を示す成分が多く入っているということになります。

 

pH測定時の注意点

二酸化炭素の量によって大きく値が変わります。そのため、測定する時間には注意が必要です。以下は私の海水水槽の1週間のpH変動のデータですが、時間によって大きくpHが変動します。

これは淡水でも同様で、通常しっかりと大気に触れた水のpH=5.6を示します。これは大気中の二酸化炭素を吸収したためです。そのため、雨はpH=5.6以下(大気中の他の酸性物質にである二酸化硫黄(SO2)や窒素酸化物(NOx)の影響でpH=5.6より少し低い)を示します。

熱帯魚を入れている水槽で水草がある場合は、ライトをつけているとpHは変動します。なので、測定時間には注意を要します。

以下は海水のサンゴ水槽でのデータですが、光をつけている時間の消費電力とpHにはかなり強い相関があるというデータになっています。サンゴや藻類がライトの光で光合成をして、水中の二酸化炭素を消費しているため、pHが上昇したということが予想されます。

 

pHを安定させるには?

pH測定値に踊らされる必要はないと思いますが、pHの変動は出来るだけない方が理想的です。pHの変動を理解するには、KHとCO2の平衡反応を理解する必要があります。化学式が出てしまうので、苦手な人はKHがある程度ないと急激にpHが変動してしまうという風に理解してください。

CO2が水に溶けた場合、以下のような化学平衡の状態になるように化学反応が起きます。

CO+  H2O  ⇔  H2CO3     ・・・(1)
H2CO⇔  H++  HCO3    ・・・(2)
HCO3–  ⇔  H+  +  CO32-   ・・・(3)
Ca2+  +  CO32- ⇔ CaCO3↓      ・・・(4)

化学平衡とは、左側の物質から右側の物質に変化する反応とその逆方向の反応速度が釣り合っていて、反応は起きていても物質の濃度が変化しないことをさします。

酸性の物質であるH+が追加された場合にKH(炭酸塩)が水に溶けているとどうなるでしょうか。H+とCO32-が反応し、以下のような反応が起きます。

+  +  CO32-  →  HCO3

H+は消費されてしまって、pHは変化せずHCO3という物質が出来上がりました。

もしKH(炭酸塩)が溶けていない場合は、H+はそのまま存在しますのでpHは下がりますね。KH(炭酸塩)があったからpHが下がらなかったということになり、この時KH(炭酸塩)には、緩衝作用(反応をやわらげる効果)があるということになります。

pHを安定させるには、KH(炭酸塩)が必要と言われるのは上記のような反応が起きるためです。

 

pHの変動要因の調べ方

水草水槽で二酸化炭素を添加している場合

熱帯魚飼育の場合は水草を入れている場合もあり、CO2を添加する場合があります。CO2の添加はpHを変化させるため、自分の水槽のpHが現在の値を示しているのは何故なのか?が分からなくなります。

前述したとおり、時間によるpHの変化もですし、pHを変化させる要因は水槽では様々あります。pH自体の値に振り回されるのではなく、何故そのpHを示しているのかを理解することの方がよほど価値があります。

しかしそのためには、上記に色々書いたように緩衝作用であるとか何とか、色々と検討する要因があり一体どうしたらよいのか、分からなくなると思います。

そのため、ある程度目安となるCO2濃度とKHとpHの関係表があります。以下3つを測定することで現在のpHが何故その値を示しているのかを判断することが出来るようになります。

  1. pH測定
  2. KH測定
  3. ドロップチェッカーを使ったCO2濃度

 

この表を使う上での注意点
この表は、CO2からの炭酸塩が唯一の酸性化化合物であると仮定しています。通常の水槽内には硝酸塩である有機酸であるとか、酸性に傾ける物質がたくさん溶けています。そのため、以下の表を使うには、ドロップチェッカーと言われる二酸化炭素の影響のみを考慮して測定できる器具が必要になります。
以下の表の計算式

CO2(ppm) = 3 × KH(dkh) × 10(7-pH)

  • (1)式の平衡定数:1.7×10-3
  • (2)式の酸解離定数:2.5×10-4

にて計算すると、3ではなく3.7になったのだけど、海外のチャートでは3を使っていたので私も3を使いました。海水の平衡定数と酸解離定数を取ってきたので、この辺りの若干のずれだと思います。

表の見方

白:CO2濃度    青:KH(dkh)   黄色:pH

全体が見切れてしまうので、クリックしてもらえれば全て確認できます。

 

測定結果の解釈の方法

測定結果は以下のどちらかになります。

pH測定値 < KH測定値と二酸化炭素濃度から表を使って算出したpH値

表から算出したpH値の方が高かった場合は、何らかの酸性物質が水の中に溶けている可能性が高いです。酸性物質として考えられるのは、水道水、硝酸塩、リン酸塩、有機酸(フミン酸等)が考えられます。

 

pH測定値 > KH測定値と二酸化炭素濃度から表を使って算出したpH値

pH測定値の方が高かった場合は、何らかのアルカリ性物質が水の中に溶けている可能性が高いです。アルカリ性物質として考えられるのは、何らかのミネラル分で、水道水や石やろ材などが考えられます。通常、アルカリ側に傾くのはKHの影響であることが多く、表から算出したpH値の方が高いというのはあまりないと思われます。

 

サンゴ水槽の場合

添加をしていない場合(カルシウムリアクターを含む)

淡水と同じ考え方を適用することもできますが、添加をしていない場合の海水水槽の場合、淡水より考え方は簡単になります。通常作ったばかりの人工海水の場合はpHは8.0~8.3の間を示すことが多いと思われます。これが基準値になります。

次に、大体の場合、基準値よりも酸性側に傾いていることが多いです。

その要因は

  • 部屋の二酸化炭素濃度が高いこと
  • 海水の濃度が狙った濃度になっていない
  • 硝酸塩などの汚れ

このどれかであることが多いです。

まず、部屋を十分に換気してみて、pHを測定してみると二酸化炭素によるpH低下の原因が分かりやすいと思います。

以下は私の家のCO2濃度の推移ですが、1000ppmを超えることもあります。換気すると一気に400ppm程度まで下がるので、効果があります。

 

次に考えられる要因として比重計を使っている場合は、海水の実際の濃度と測定値が合致していない場合が多いです。比重計はかなり狂いが生じやすく、屈折率を使ったタイプの海水濃度計か、電気伝導度を使ったタイプの海水濃度計の方で測定してみることをお勧めします。値段が高いので、難しい場合もあると思うのですが・・・

最後に硝酸塩などの汚れを測定してみることをお勧めします。いきなり硝酸塩などを測定しても、二酸化炭素の影響や海水濃度の影響があれば、要因が分からなくなってしまうので、上記の順番をお勧めしています。

 

添加をしている場合

これはもう要因が様々になってしまい、何を添加しているのかによって違いますので一つ一つ要因を探っていくしかありません。よくあるのは塩化カルシウムが入った添加剤の入れすぎによりKHの低下とH+の増加によりpHが下がってしまっている場合があります。

 

まとめ  ~pHの値から何を判断すればよいのか?~

アクアリウムの場合、生体への影響を確認するのが最も大切だと思います。多くの生体はpHの変動に対して対応する力を持っています。そのため、pHが高すぎないか、低すぎないかを見ることは重要ですが、細かな値を気にしすぎる意味はあまりないと思います。

ただ、自分の水槽の水質をpHをヒントに理解するというのはコケの発生やサンゴの成長を早めることなどにつながりますので、有益だと思います。あまり神経質にならずに、好奇心を持ってpHから水質を探ってみるというのが最も有益なpHの利用法だと考えています。

私の水槽の場合は、常時pHモニタリングをしていますので、このような場合は少しのpHの変動で水槽の異変を察知すること(例えばKHの値が少なくなってきている)も可能だと思いますが、通常はこのような常時モニタリングをされている方は少ないと思いますので、狙い値(生体が住んでいたところのpH)から大きく外れていないかを確認すれば十分であり、後はpHの値から水質を探ることが重要と思います。