【まとめ】サンゴ水槽のリン酸を安定的に0.05ppm以下にするには?

はじめに

BPS(バクテリオプランクトンシステム)を活用してリン酸濃度を低減するためには、C・N・Pの比率や添加量を明確にすることが重要です。

しかし、実際にアクアリウムを管理していると、その基準が分からず悩む方も多いのが現状です。さらに、炭素源には液体タイプと固体タイプがあり、どちらを選ぶべきか判断が難しい点も、大きな課題となっています。

その結果、リン酸濃度を安定的に低く保つのが難しいと言われており、長年アクアリウムを楽しんでいる私も、SPSなどのサンゴを維持する際に苦労してきました。

リン酸は主に餌由来のため、魚の数を減らせばある程度は対策が可能です。しかし、やはり自然のサンゴ礁のように、魚とサンゴが共存する美しい景観を作りたいと考える方も多いのではないでしょうか。そのため、モチベーションを維持する意味でも、リン酸管理は重要なポイントになります。

そこで、より効果的な炭素源の種類や硝酸塩の添加量を詳しく調査し、リン酸濃度を安定的に低く保つ方法を模索しました。

本論

目的

本実験の目的は、ベアタンク環境においてリン酸濃度を0ppm、またはそれに近い状態に維持できる水槽管理方法を確立することです。特に、ベアタンクを前提とし、底砂の劣化によるオールドタンクシンドロームの発生を防ぎながら、管理が容易な状態を目指しました。

 

目標

本実験では、以下の2つの課題を明確にすることを目標としました。

  1. バクテリアを増加させるために必要なC(炭素)、N(窒素)、P(リン)をどの程度添加すればよいのかを明らかにする。
  2. 液体炭素源と固体炭素源のどちらがより効果的かを検証する。

 

方法

作り出す状態

硝酸塩と炭素源の添加量を変化させ、以下6つの異なる状態を作り出しました。それぞれの条件でリン酸濃度の変化を測定し、最適な管理方法を検証しました。

  1. 硝酸塩律速

    • 硝酸塩の添加量:平均2.8ml/日
    • 炭素源の添加量:平均18.6ml/日

    → 硝酸塩が不足する状態での影響を確認。

  2. リン酸律速

    • 硝酸塩の添加量:平均7.8ml/日
    • 炭素源の添加量:平均18.8ml/日

    → 硝酸塩と炭素源を十分に添加し、リン酸が律速因子となる状態を作成。

  3. リン酸律速(硝酸塩増量)

    • 硝酸塩の添加量:平均14.5ml/日
    • 炭素源の添加量:平均29.7ml/日

    → 硝酸塩と炭素源をさらに増量し、リン酸律速の状態を強化。

  4. リン酸律速(炭素源増量)

    • 硝酸塩の添加量:平均22.0ml/日
    • 炭素源の添加量:平均30.5ml/日

    → 炭素源をさらに増量し、リン酸律速の状態をより強くする。

  5. 炭素源律速

    • 硝酸塩の添加量:平均13.3ml/日
    • 炭素源の添加量:平均9.3ml/日

    → 炭素源が不足する状態を作り出し、影響を確認。

  6. バイオペレットリアクター

    • 硝酸塩の添加量:平均11.1ml/日
    • 炭素源の添加量:0ml/日

    → 液体炭素源の添加をやめ、**固体炭素源(バイオペレットリアクター)**のみを使用。バイオペレット全体が動く程度の流量で運用し、バクテリアフィルムが剥がれて元の色が見える状態を維持。

 

期間

2024/12/4~2025/2/28

 

測定パラメータ

以下の11項目について測定・評価を行いました。

  • 添加物関連

  1. リーフエナジーの添加量
  2. べっぴん珊瑚イエロー(ビタミン剤)の添加量
  3. べっぴん珊瑚オレンジ(アミノ酸)の添加量
  4. 硝酸塩(グローテック Nitrat plus)の添加量
  5. 炭素源(べっぴん珊瑚すっぴん)の添加量
  6. 炭素源(NO3:PO4-X)の添加量
  7. 土壌バクテリア(べっぴん珊瑚)の添加量
  8. リン酸濃度(HANNAチェッカーHC 低濃度リン酸塩 / HI 713を使用)
  9. 硝酸塩濃度(REDSEA 硝酸塩プロリーフテストキットを使用)
  10. リン酸差分(前日との差分)
  11. 硝酸塩差分(前日との差分)

 

水槽について

本実験の水槽には、大型の海水魚を含む計11匹の魚と多数のサンゴが生息しています。大量の餌を必要とするため、リン酸管理が特に重要です。

◆海水生体
魚(11匹)
  • クイーンエンゼル
  • パッサーエンゼル
  • ナンヨウハギ
  • キイロハギ
  • イトヒキテンジクダイ
  • タテジマキンチャクダイ
  • フレームエンゼル
  • レモンスズメダイ
  • トールポッツダムセル
  • ディアディムアンティアス(2匹)
  • パープルクイーンアンティアス(4匹)
サンゴ(主要種)
  • ハイマツミドリイシ(ピンク、パープル)
  • 八重山養殖ミドリイシ(グリーン)
  • トゲスギミドリイシ(ブルー)
  • ショウガサンゴ(パープル)
  • ウスコモン(グリーン、レッド)
  • メデューサコモン(レッド、グリーン)
  • エダコモンサンゴ(スーパーレッド、ブルー)
  • スゲミドリイシ(インドネシア)

 

◆設備
  • 水槽サイズ:1500×600×600mm(オーバーフロー水槽)
  • 濾過槽:900×540×355mm
  • メインポンプ:サンソー PMD-1561B
  • 照明:EcoTech Marine Radion G5 XR30 Blue ×3台
  • プロテインスキマー:RLSS R12-i(改造済み)
  • カルシウムリアクター:Reef Octopus CalReact 220
  • バイオペレットリアクター:Reef Live BR1000Ⅱ

 

実験結果

実験の結果、バイオペレットリアクターが最も安定したリン酸管理を実現できることが明らかになりました。その他の条件ではリン酸濃度が大きく変動し、安定維持が難しいという結果になりました。

 

 

また、各パラメータの相関分析も実施しました。その結果、リン酸濃度が高いほど、翌日にリン酸がよく減少するという傾向が見られました。今後、条件をより細かく設定した相関分析を行う予定です。ちなみに、これ以外のパラメータで相関がありそうなものは全実験結果を母集団とした分析ではありませんでした。

考察

バイオペレットによるリン酸塩の安定的な減少の考察

本実験の結果から、バイオペレットを利用することでリン酸塩の濃度が安定的に低下することが確認されました。これについて、以下の要因が関与していると考えられます。

液体炭素源の影響と課題

実験では、液体炭素源を多量に添加した場合、シアノバクテリアやコケの急増が確認されました
これは、レッドフィールド比の観点から考えると、光合成生物も炭素を取り込み、バクテリアと競合することで、リン酸塩の低減が不安定になったと推測されます。

つまり、液体炭素源を用いると、バクテリアによるリン酸吸収と同時に、シアノバクテリアやコケが増殖し、リン酸塩の除去効率が低下する可能性があるということです。

バイオペレットの特性とリン酸塩低減の安定性

一方、固体炭素源であるバイオペレットは、分子量やサイズが大きく、コケ類が直接利用しにくいと考えられます。

バイオペレットリアクター内では、ペレット表面に付着したバクテリア群のみが炭素源を利用できるため、

  • シアノバクテリアの過剰な増殖を抑えつつ
  • バクテリアによるリン酸塩の吸収を促進する

という効果が期待できます。

バイオペレットの分解とコケの利用可能性

さらに、バイオペレットが徐々にマイクロプラスチック化しても、粒子が比較的大きいことから、コケ類が栄養源として利用するのは困難であると考えられます。

このため、液体炭素源のようにコケが急増するリスクを抑えながら、安定したリン酸塩除去が可能となります。

考察のまとめ

以上のことから、バイオペレットを導入することで、リン酸塩の安定的な除去が実現し、リーフアクアリウムにおける水質管理の向上に寄与すると考えられます。

特に、

  • シアノバクテリアやコケの増殖を抑制できる点
  • バクテリア群によるリン酸吸収が安定する点
  • 水槽全体の水質維持に貢献する点

が、バイオペレットの大きなメリットであるといえるでしょう。

まとめ

本実験を通じて、ベアタンク環境における最適なリン酸管理方法として、バイオペレットリアクターの使用が有効であることが確認されました。今後は、バイオペレットの最適な流量やバクテリアの活性維持について、さらに詳細な研究を進めていきます。

バイオペレットリアクターによるリン酸塩管理の有効性と今後の展望

液体炭素源と固体炭素源の比較

本実験では、リン酸塩を0ppm付近で維持するために、硝酸塩と炭素源の添加量を詳細に調査しました。その結果、液体炭素源ではリン酸塩濃度を安定して低減できないことが判明しました。

一方、固体炭素源であるバイオペレットリアクターを使用した場合、特別な手間をかけることなく、リン酸塩をほぼ0ppmに維持できることが確認されました。これにより、SPS水槽の代表格であるミドリイシの飼育にも非常に有効であると考えられます。

バイオペレットリアクターの流量とリン酸塩の減少

バイオペレットリアクターの流量は、ペレット表面についたバクテリアフィルムを適度に剥がせるレベルを確保するのが理想とされています。本実験のデータからは、流量が多いほどリン酸塩の減少が効果的に進む傾向が見られました

ただし、流量を無制限に増やすことにメリットがあるかどうかは未確定であり、さらなる検証が必要です。

リン酸塩管理の新たな可能性

今回の検証により、海水魚が多く、大量に餌を与える環境においても、リン酸塩を0ppm付近に抑えながらミドリイシを安定して飼育できる可能性が示されました。

リン酸塩の高さに悩むリーフアクアリストにとって、バイオペレットリアクターの導入は有力な選択肢となるでしょう。

また、SPS水槽だけでなく、LPSやソフトコーラル水槽でもリン酸塩の過剰蓄積を抑制できる可能性があり、幅広いリーフタンクへの応用が期待されます。

今後の展望

より安定した水質管理を実現するためには、バイオペレットリアクターの最適な流量や添加方法をさらに検証することが重要です。今後は、

  • 異なる種類のバイオペレットの比較
  • リアクターの流量とバクテリアの活性の関係
  • 長期的な安定性の評価

といった観点から、さらなる調査を進め、より効果的なリン酸塩管理の方法を確立していきたいと考えています。